(講演テーマより抜粋)
世は無常なるもの。世の中は変わりゆくもの。時の流れの下では一つとして変わらぬものはなく、形を留められるものはない。すべてのものは「有り難い」。そんな「有り難い」ものの存在、そしてその中の思い遣りこそが、世の中、そして人の一生を豊かにする。
生まれてくる命、死にゆく命。生きることでそこには出会いがあり、そして別れがある。その喜びも、その悲しみも、すべては時と共に流れ去ってゆく。
世は無常である。「有」って当然では、失うことへの絶望に苛まれる。しかし、「無」が当然であるならば、束の間の「有」がこの上ない幸せをもたらすのである。
どんなに努力しても、正当性を追求しても、運命の時は必ずやってくる。大切なあの人との別れ。別れがあるからこそ、その運命を受け入れられるからこそ、心から「ありがとう」が湧き上がる。
束の間の人生を共有できたことへの愛おしさ。かけがえのない思い出を与えてくれたことの嬉しさ。限りがあるからこそ、有り難い運命だからこそ、共に歩んでこられたことに幸せを感じる。
人生には出会いと別れがある。誰かが産まれてくるとき、誰かがこの世を去ってゆくとき、人はその人への感謝の念に満ち溢れる。あなたに出会えてよかった。二度と戻ってこない時間を、あなたと共に過ごすことができてよかった。
あなたに与えられたこのかけがえのない温もりを胸に抱きながら、私はこれからを歩んでゆきます。
透き通った無の中で、その果てしない空しさこそが、束の間の「生」とその中の「出会い」を輝かしく引き立てる。そんな有り難い、そしてありがたい人生を分かち合いながら、人々は今日も前へと進んでゆく。